はじめまして。
鎌倉でフラワーショップ「K’s Orchid」を営んでおります、葉山佳織と申します。

フローリストとして25年、胡蝶蘭の栽培に携わって15年になります。

素敵な方から贈られた、美しい胡蝶蘭。
その輝きに心癒される一方で、「こんなに立派なお花、私に育てられるかしら…」と、少し不安な気持ちになっていませんか?

大丈夫ですよ。
胡蝶蘭は、いくつかの大切なポイントさえ押さえれば、長く美しい姿を楽しませてくれる、とても健気な植物なんです。

この記事では、まずあなたが胡蝶蘭のために「最初にやるべきこと」を、私の経験を交えながら優しく解説します。
さあ、一緒にこの子の声を聞いて、新しい家族として迎える準備を始めましょう。

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目次

【ステップ1】まずは健康診断から|胡蝶蘭が長旅で疲れていないか見てあげましょう

お家にやってきたばかりの胡蝶蘭は、人間でいえば長旅を終えたばかりの状態です。
まずは「お疲れさま」と声をかけるような気持ちで、今の健康状態を優しくチェックしてあげましょう。

葉は健康のバロメーターです

つやつやと輝く葉は、元気な証拠です。
人間で例えるなら、お肌の調子を見るようなものですね。

ハリとツヤがあり、色が濃い緑色をしていれば、とても健康な状態です。
もし葉に少しシワが寄っていたり、元気がなさそうに見えたりしたら、それはお水を欲しがっているサインかもしれません。

根っこは大切な心臓部

ポットの隙間から、根っこの様子をそっと覗いてみてください。
緑色や、乾いている時は銀白色の根が見えれば、それはとても元気な根っこです。

もし、黒くブヨブヨしていたり、スカスカになっている根が見えたら、それは根腐れのサインかもしれません。
実は私もフローリストになりたての頃、水のやりすぎで高価な胡蝶蘭の根を真っ黒にしてしまった苦い経験があります…。
根っこは胡蝶蘭の命を支える、大切な心臓部なんです。

お花や蕾の状態もチェック

美しいお花や、これから咲くのを楽しみにしている蕾も見てあげましょう。
配送中に少し傷がついてしまったり、しおれたりしているお花はありませんか?

もし傷んだお花があれば、そのお花はもう役目を終えた子です。
茎の根元から優しく摘んであげましょう。
そうすることで、他の元気なお花や蕾に栄養がしっかりと届くようになりますよ。

【ステップ2】窮屈なお洋服は脱がせてあげて|ラッピングはいつ、どう外す?

贈答用の胡蝶蘭は、とても華やかなラッピングがされていますよね。
でも、このお洋服は、胡蝶蘭にとっては少し窮屈なものなんです。

なぜラッピングを外す必要があるの?

胡蝶蘭はもともと、木の幹などに根を張って生きる「着生植物」です。
そのため、根っこで呼吸をしていて、風通しが良い環境を好みます。

ラッピングをしたままだと、鉢の中が蒸れてしまい、大切な根っこが呼吸できなくなってしまいます。
これはまるで、私たちがコートを着たままお風呂に入るようなもの。
息苦しくなって、根腐れという病気の原因になってしまうんです。

外す最適なタイミングは「すぐ」が理想、でも…

ですから、ラッピングはお家に迎えたらすぐに外してあげるのが理想です。

ただ、贈ってくださった方がいらっしゃる時など、すぐには外しにくい場合もありますよね。
その場合は、せめて鉢の底を覆っているビニールやセロハンに、ハサミでいくつか切り込みを入れてあげてください。
それだけでも、風の通り道ができて、少しだけ呼吸が楽になりますよ。

傷つけない、優しいラッピングの外し方

ラッピングを外す時は、焦らず、ゆっくりと。
まるで大切な贈り物の包装を解くように、丁寧に取り扱ってあげてくださいね。

  1. ホチキスの針に注意する
    和紙などを留めているホチキスの針で、葉やお花を傷つけないように気をつけましょう。
  2. 支柱ごと引き抜かない
    ラッピング材だけを、そっと上に引き上げるように外します。
    支柱に引っかかっている場合は、無理に引っ張らないでくださいね。
  3. 鉢を倒さないように
    片手でしっかりと鉢を押さえながら、もう片方の手で優しく外してあげましょう。

【ステップ3】胡蝶蘭がいちばん喜ぶお部屋はどこ?|最適な置き場所の条件

さあ、身軽になった胡蝶蘭のために、お家の中で一番心地よい場所を探してあげましょう。

基本は「人が心地よいと感じるリビング」

胡蝶蘭が好むのは、明るい日陰で、風通しが良く、人が快適に過ごせるくらいの温度の場所です。
難しく考えすぎなくても大丈夫。

まずは、あなたが一番長く過ごす、心地よいリビングに置いてあげるのが一番です。
レースのカーテン越しに、柔らかい光が入るような窓辺が特におすすめですよ。

これだけは避けて!胡蝶蘭が苦手な3つの場所

心地よい場所が大好きな胡蝶蘭ですが、実は苦手な場所もあります。
お客様から「葉が茶色くなってしまった」というご相談で一番多いのが、置き場所が原因のケースです。

  • 直射日光が当たる場所
    強い日差しは「葉焼け」の原因になります。
    葉が黒っぽく、または白っぽく変色してしまいます。
  • エアコンの風が直接当たる場所
    乾燥が苦手なので、エアコンの風は避けてあげてください。
    お肌がカサカサになるのと同じで、葉っぱの水分が奪われてしまいます。
  • 寒すぎる場所(特に冬の窓辺)
    胡蝶蘭は暖かい地域の出身なので、寒さが苦手です。
    10℃以下になるような場所、特に冬の夜に冷え込む窓際は避けてあげましょう。

玄関や寝室に置いても大丈夫?

「玄関に飾りたいのですが…」というご質問もよく受けます。
日当たりや温度の条件が合えば、もちろん大丈夫ですよ。

ただし、日中も薄暗かったり、冬場に冷え込んだりする玄関の場合は、時々リビングで日光浴をさせてあげたり、冬の間だけ暖かいお部屋に移動させてあげたりと、少し気にかけてあげてくださいね。

【ステップ4】お水のあげすぎは禁物です|最初の水やりと今後の基本

植物を育てる上で、一番悩むのが水やりかもしれませんね。
特に胡蝶蘭は、お水のあげすぎで失敗してしまう方がとても多いんです。

もらった直後、すぐにお水はあげるべき?

まず、焦ってすぐにお水をあげる必要はありません。
鉢の中の植え込み材(水苔やバークチップなど)を、指でそっと触ってみてください。

表面が乾いていたら、コップ1杯分くらいのお水をあげましょう。
まだ湿っているようなら、お水を欲しがっていません。
「乾いていたらあげる」
この子の喉の渇き具合に合わせてあげるのが、一番の愛情です。

専門店オーナーが教える「失敗しない水やりの基本」

今後の水やりの基本は、とてもシンプルです。

  • 頻度:7日〜10日に1回が目安。季節や置く場所によって調整します。
  • :1株あたり、コップ1杯(150〜200ml)程度。
  • 時間:暖かい午前中がおすすめです。
  • あげ方:お花や葉にかからないよう、株元に優しく注ぎます。

そして、とても大切なポイントが一つ。
受け皿に溜まったお水は、必ず捨ててあげてください。
これは胡蝶蘭にとって、湿った靴下をずっと履き続けているようなもの。
根腐れの最大の原因になってしまいます。

私の失敗談:愛情のつもりが…

先ほど少しお話ししましたが、私も昔、お客様にお届けするはずだった大切な胡蝶蘭を、根腐れさせてしまったことがあります。

「きれいな花を咲かせてほしい」「元気に育ってほしい」という気持ちが強すぎて、毎日毎日、愛情のつもりでお水をあげてしまったんです。
良かれと思ったことが、逆に胡蝶蘭を苦しめてしまいました。
この失敗が、私が胡蝶蘭の栽培を一から猛勉強するきっかけになりました。
だからこそ、皆さんには同じ失敗をしてほしくないのです。

【ステップ5】焦らないで大丈夫|植え替えや肥料はまだ必要ありません

「もっと大きな鉢に植え替えた方がいい?」「栄養剤をあげた方がいい?」
そんな風に思うあなたの優しさは、とても素敵です。
でも、今はまだその必要はありませんよ。

なぜ、すぐの植え替えはNGなの?

お家にやってきたばかりの胡蝶蘭は、美しい花を咲かせるためにたくさんのエネルギーを使っています。
そんな時に植え替えをしてしまうと、大きなストレスを与えてしまうことになります。

これは、引っ越してきたばかりで疲れている人に、さらに「お部屋の模様替えをお願いします」と頼むようなもの。
まずは新しいお家にゆっくり慣れてもらうのが先決です。
植え替えに最適なのは、花がすべて終わって、暖かくなってきた春先です。

開花中の肥料は「ごちそうの与えすぎ」

プロの生産者さんが育てた贈答用の胡蝶蘭は、花を咲かせるために必要な栄養をすでにたっぷりと蓄えています。
そのため、お花が咲いている間に肥料を追加であげる必要は全くありません。

むしろ、栄養過多になって根を傷めてしまう「肥料焼け」の原因になることも。
満腹の人に、さらにごちそうを勧めるようなものですね。
かえってお腹を壊してしまいます。
肥料も、花が終わってからの楽しみにとっておきましょう。

よくあるご質問(FAQ)

お店でも、お客様からたくさんのご質問をいただきます。
きっと、あなたの疑問もこの中にあるはずです。

Q: 葉が1枚だけ黄色くなってきました。病気でしょうか?

A: 心配いりませんよ。
それは多くの場合、一番下にある古い葉が役目を終えて、自然に新陳代謝しているだけです。
人間と同じで、植物にも世代交代があるんですよ。
ただし、複数の葉が同時に黄色くなる場合は、根腐れや日焼けのサインかもしれませんので、置き場所や水やりを見直してあげましょう。

Q: 花が少しずつしおれてきたのですが、どうすれば良いですか?

A: 終わったお花は、茎の根元から優しく摘み取ってあげてください。
そうすることで、まだ咲いている他のお花や、これから咲く蕾に栄養を集中させることができます。
一つひとつのお花に「ありがとう」と声をかけながら手入れをするのも、楽しい時間ですよ。

Q: 頂いた胡蝶蘭の品種がわからないのですが、育て方は同じですか?

A: 基本的な育て方は、ほとんどの胡蝶蘭で同じなのでご安心ください。
大輪、ミディ、ミニなど大きさは様々ですが、好む環境や水の欲しがり方はとても似ています。
まずはこの記事でご紹介した基本を大切に、目の前のあなたの子と向き合ってあげてくださいね。

Q: 小さな虫が飛んでいるのを見つけました。どうすれば良いですか?

A: それはコバエかもしれませんね。
多くの場合、植え込み材が常に湿っていることが原因です。
まずは水やりの頻度を見直し、表面がしっかり乾く時間を作ってあげましょう。
お部屋の風通しを良くすることでも予防できますよ。

Q: 花が終わってしまったら、もうおしまいなのでしょうか?

A: いいえ、ここからが胡蝶蘭を育てる本当の楽しみの始まりです。
適切にお手入れをすれば、来年もきっと美しい花を咲かせてくれます。
花が終わった後のお手入れについては、また別の機会に詳しくお話しさせてくださいね。
あなただけの花が咲く日を、私も楽しみにしています。

まとめ

頂き物の胡蝶蘭を前にお届けした「まずやるべき5つのステップ」、いかがでしたでしょうか。

  1. 健康診断をしてあげる
  2. 窮屈なラッピングを外す
  3. 心地よい場所に置いてあげる
  4. お水はあげすぎない
  5. 植え替えや肥料は焦らない

大切なのは、ただこれだけです。

難しく考えすぎず、まずはこの子の声に耳を傾け、日々の小さな変化を一緒に楽しんでみてください。
植物を育てることは、命と向き合い、私たちの心をも豊かにしてくれます。

あなたの日常に、この一鉢の胡蝶蘭が素敵な彩りと癒やしをもたらしてくれることを、心から願っています。